甲斐なきセレナーデ
彼:「こんばんわ、大切な君。こんばんわ、いとしい子!恋しさのあまり君の所へ来てしまった。ねえ、ドアを開けてくれよ。ドアを開けておくれ!」
彼女:「うちのドアは鍵がかかっているの。あなたを入れさせないわ。お母さんがね、賢明にも私に忠告してくれたのよ。あなたを当然のように中に入れたりしたら、あたしはもうおしまいなんですって!」
彼:「夜はとっても寒くて、風が凍りつくようだよ。だから僕の心も凍ってしまい、愛も消えてしまうだろうよ。開けてくれないか、僕のいい子ちゃん!」
彼女:「あんたの愛が消えるというなら消しておしまいなさい!愛がずっと消えたままというなら、さっさとお家のベットに戻って休むがいいわ!おやすみなさい、私の坊やちゃん!」
…まさに甲斐が無いですね。これはドイツの三大Bと称される、ヨハネス・ブラームス(他の二人はバッハとベートーヴェンです)の歌曲です。セレナーデというのは音楽のジャンルの一つで、一般的には恋人や女性を讃えるために、大抵夕方の屋外で演奏される楽曲の事です。つまりこの彼は、彼女に捧げる歌をわざわざ用意して、夕方の寒い時間に家の前まで出張っていって、自分の想いを伝えようとしたのにもかかわらず「帰って寝なさい」と一蹴されたわけですね。切ないですね。可愛そうですね。でも笑ってしまいますね。悪いけど…。
曲調はかなり軽快で。ブラームスさんって、僕のイメージではこんな笑えるような曲を書く人では無いのです。いつでも重低音がズズズと、引きずるように鳴っているような、常に何か重たいものを心に持っているような。実際、性格もあまり明るいとは言えないような人だったらしく、無愛想で皮肉屋で、背が低いのをとても気にしていたり、自分が作ったけど気に入らない曲は焼却して、永遠に闇に葬ったり(室内楽を教えて下さった先生が「なんて勿体ないことを…」と嘆いておられました)。常にコンプレックスの固まりだったという話を聞いたことがあります。
「コンプレックスは創造の神」と、昔の偉い哲学者さんも言っていましたが、それならブラームスさんは、ものすごい創造の力を持っていたのでしょう。どんな曲でも作ってしまえる訳です。
今日はこの曲を思い出して、練習しようと楽譜を探したのですが、どこにもありませんでした。どこにいったんだろうと思ったのですが、買ってないので無いのは当たり前でした。。買ってない…。買い無い…。甲斐ない…。歌いたい時に楽譜が無いのはフラストレーションが溜まります…。